生涯投資家
村上世彰 著
村上ファンド事件とはなんだったのかという疑問の一部が紐解ける
村上氏の投資スタンスに共感
企業に積極的に働きかける「もの言う株主」の捉え方が変わった
おすすめ度 ☆☆☆☆☆
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当時はよくわからなかった村上ファンド事件
村上氏がインサイダー取引の容疑で逮捕されたのは2006年です。それはちょうどわたしが投資を始めたばかりのときでした。
ライブドショックも同時期だったと記憶していますが、どちらが先でどのような関係があったのかという時系列や関係性はよくわかりませんでした。
当時はテレビでヒステリックに村上氏のことを悪者にする報道が流れていたと思います。母と二人でテレビをみながら、母に「この人みたいな守銭奴になっちゃいけないよ」と言われた記憶があります。しかし投資を始めたばかりのわたしはインサイダー取引がなんなのかすらわからず、なぜこんなに連日テレビで放送しているんだろうくらいの感想でした。というかまるで興味がなかったという方が正しいでしょう。
あれから10年以上経って、今この本を取って読んでみた感想は「この人、ハメられたんじゃないかな?」というものでした。たしかに本著は村上氏視点から書かれていますので、そのような印象になるのでしょう。ですが今の加計学園の報道と同じく、ある組織や誰かの意図でむりやり悪の印象を植え付けられて、真実を歪められたというのがわたしの感想です。
マスメディアや獣医師会などの既得権益側に手を出すと、各方面からむりやりこじつけで悪者にされ、社会から事実上抹殺されてしまうのは今も昔も同じなのかとちょっとがっかりします。
投資家としてのスタンスに共感できる
村上氏の投資スタンスは「もの言う株主」という印象があります。
その「もの言う株主」の印象はテレビや新聞の報道で、企業からむりやり配当を出ささせたり、会社を乗っ取るという印象操作をされていました。ですがこの本を読めば、「株主軽視の傲慢経営をしている企業」に「もの言う株主」だったと読み取れます。
つまり「もっとやれるのになぜやらないんだ」という叱咤激励なのです。実際はどうかはわかりませんが、わたしも個人投資家の端くれなのでこの投資スタンスは共感できます。
これは数日前に読んだ『【書評】これが長期投資の王道だ』の著者で同じくファンドを運用していた澤上篤人氏の、企業を応援するスタンスとはまったく逆に見えます。ですがこれは作用する方向が違うだけで、本質的には企業を良くしたいという思いは同じであると気付きます。
この二人の投資家としての投資哲学にはわたし自身もおおいに学ぶところがあり、またおおいに共感できます。
読み物としてもおもしろい
この本の作りはハードカバーで、文字もやや小さめでありページ数も結構あります。表紙は真っ黒でいかにも読みにくそうな感じです。それでも中身は大変読みやすく、また内容が面白いのですんなりと読み終えました。元官僚だから文章が読みやすいとか、そんなわけはないのでしょうが、いままで読んできた中ではかなり読みやすい部類の本に入ります。
しかも読み物としてだけではなく、投資哲学の参考としても勉強になります。株式投資の初心者はもちろん、ベテラン投資家ならなお面白く読めると思います。
正直この本を読まなかったらインサイダー取引をしたという悪い印象のまま、村上氏に対してあまりいイメージを持たなかったでしょう。しかしそれは投資家という視点から見れば間違いだったと気付きました。
今でも村上ファンド事件当時の印象のままの人もかなりいることでしょう。そういう人にもぜひ一度読んでもらって、どこに真実があるのかを自分の頭で考える。
そして巷にあふれているフェイクや印象操作をまずは疑い、うかつに簡単には信じないようにする。そんな機会を与えてくれる良書です。